Sunday, November 27, 2011

拘置所より留守宅への書簡 (1)牧口常三郎

〇 十月十一日附
貞子さん、八十五円正にとゞきました。ありがたふ。これで当分安心です。食物は一円弁当を一日一度、あとは当初の分で沢山。たゞ夜が寒くて困りました。左の品を至急入れてください。金は漸く六日、ざぶとんと、ちり紙は十日に届きました。はやくてもさうですから急いで頼みます。
まあ、三畳間、一人住居のアパート生活です。お中(腹)をいためて困りましたが治りました。あとは風ひかぬ事を注意して居ります。本も中にありますが、受付にきいてよいものを入れて下さい。渡辺力君に相談して。新しい本でないとは入れません。老人には当分こゞで修養します。安心して下さい。
一個人から見れば災難でありますが、国家から見れば必ず『毒薬変じて薬となる』といふ経文通りと信じて信仰一心にして居ます。二人心を協はせて朝夕のお経を怠らず留守をたのみます。取調べの山口検事様も仲々打ち解けて価値論(私の分)を理解してくれます。そのため一週間もかゝりました。仲々当所の中からは面倒ですから、気をきかして、必要の冬衣などを入れてください。本間様か誰かにきいて下さい。そして白金へも、戸田様へも教へて上げてください。
(一) 白毛布一枚(白イカバーが入れてよいなら、かぶしたまゝ。受付できく)
(一) 綿入一枚(木綿の分、夜着て居たもの)
(一) 手ヌグイ一枚
(一) 茶色の毛布一枚
(一) モヽヒキ(アノ警視庁へ持って行った毛糸の分です。之は当所からウチへ下ゲラレタ筈で      す。もし下がらな    かったら、聞いてください。洗濯して)
(一) 白のハダギ二枚
(一) フンドシ二枚
(一) ハンケチ(大小)二枚
(一) ハラマキ一枚
(一) タンゼンハイカさうですが、タモトにヌイ直せば、あの夜着て居たのが、冬着又は夜着とし      て入れられさうです。之れもタモトにとぢればよいと思います。
警視庁への差し入れは折々思ひちがひがあつて困りました。素直に云ふ通り実行して下さい。彼是れ考へずに、洋子ちゃんを大切に、お互に冬になつたら風ひかぬ様に、風をひいたらゆたんぽで直ちに治すことが、クマには殊に大切です。あとまた十日も手紙をあげられません。差入れ出来るものは受け付けでよく聞いて出来るものをたのみます。昨日は久しぶりで入浴ができました。理髪もしました。仲々暖か味があります。たゞ独房故、人にきけないので困りましたが、少しなれました。 
牧 口 ク マ 殿
牧 口 貞 子 殿
〇一月七日附【昭和十九年)
貞子ちゃん私も無事にこゝで七十四才の新年をむかへました。こゝでお正月の三日間はおもちも下さいましたし、ごちそうもありました。心配しないで留守をたのみます。戦地をおもうとがまんができます。大聖人様の佐渡の御苦しみをしのぶと何でもありません。過去の業出て来たのが経文や御書の通りです。
御本尊様を一生けんめいに信じて居れば次々に色々の故障がでて来るのが皆治ります。さてハダコとハダギとを宅下げしますから代わり着を早くもって来て下さい。本もネ。秋月翁はどうおっしゃったか。渡辺にきいて知らせて下さい。
今が寒さのぜつぢやうです。ゆたんぽをかして下さるのでたすかります。大急ぎで差入れて下さい。ちりかみもとゞきました。ベンゴ士はどうはこ(運)んで居るか。皆さんに相談して(渡辺をして)しらせて下さい。洋三の手紙もこちらへ届けてもらへると思ふ。エビオスは医者さんが許して下されたのですからそれを云ふて入れてくれ、小栗、尾原の家庭は相変らずか知らせて下さい。日付を必ず入れてね。母と二人で洋子を大切に、留守を頼む。細かいありのまゝを書いて下さい。その方が戦地でもよろこびます。稲葉の御父さんの病気は直ったか返事に書いて下さい。
牧 口 貞 子 殿

 富士宗学要集(創価学会)第9巻 434~437㌻

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